オフィスに彼氏が二人います⁉︎
「あのさぁ、久我くん」
ビールも三杯目に差し掛かり、程良くお酒が回ってきたところで、私は自分の心の中で渦巻くモヤモヤを彼にぶつける。
「何で、キスしてくれないの?」
もう一ヶ月も経つのに、彼はそういうこと、何もしてくれない。
「いや、キスならしただろ」
「え? いつ?」
「その、時山部長の家で……」
「あれは久我くんが時山部長に挑発されて無理やりしてきたんじゃん! それに、時山部長と別れて久我くんとちゃんと付き合い始めてからは一度もしてないじゃん!」
一ヶ月で、一度も。小学生じゃあるまいし、この歳で付き合い始めたんだから、いくらなんでもそろそろキスくらいしたい。
「お互いにいい感じに酔ってるし、今ここでしない?」
「バッ……! ここをどこだと思ってんだ! 見られるだろ!」
「個室じゃん! 誰にも見られないじゃん! 勢いが大事だよ、こういうのは」
私はフザけてるわけじゃない。真剣だ。真剣に久我くんを想っているからこそ、キスがしたい。……ずっとキスがないと、いつか久我くんからの気持ちを疑ってしまいそうで、不安になるから。
だけど久我くんは。
「……やっぱダメ!」
少し考えた後、首を横に振った。
でも、それはキスしたくないからとかそういうのじゃなく、
「今までキス出来なかったのは、七香との友だちっぽい感覚も居心地良くて好きだったし、単純にタイミング逃して恥ずかしかったから。
俺だって、キスしたいよ。でも、たとえば夜景見ながらとか、高級レストランで食事した後とか、もっとムードのある時にした方がいいかなって」
夜景に高級レストランって。意識的か無意識かはわからないけど、未だにどこか時山部長を意識している久我くんが何だかかわいい。口に出すと怒られそうだから言わなかったけど。