先生、もっと抱きしめて
三好あゆみ、追試。
「…………」

放課後。

数学準備室は、夕焼けに照らされて、黄金色に輝いている。

湿気を帯びた風がカーテンを揺らしているのに目を取られ、しかしすぐに目の前の人に視線を戻した。

私は一番前の席に座っていて、教卓には担任のマツタク――松井卓也先生(数学科担当)が、眉を顰めながら、意外と形の良い指で追試の用紙を辿っていたが、その表情は険しい。

先日の小テストで、あろうことか0点を取ってしまった私は、放課後補習を3日間受けたにも関わらず、最終日の追試でもひとケタの点数を叩きだしてしまった。


「三好……」


マツタクは、力ない声で私の名字を呼ぶ。

顔が……呆れてる。

男前でもないけれど、カッコ悪いわけでもない通称マツタクは27歳。中肉中背の黒髪黒メガネ君。
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