先生、もっと抱きしめて
先生はまたハンカチを出そうとした。
「自分のを持ってる」って遮ろうとしたのに、ぎゅっと目に押し付けられて、涙を吸いとっていく。
アイロンが掛けられた白いハンカチの向こうに、心配そうなマツタクの顔が。


「オレが泣かせてるわけじゃないのに、申し訳ない気分になるなぁ」

「ごめんなさい……」


今、私と先生は、
この、小さな部屋に、二人きり。

ここから手を伸ばせば、触れられる。



けど、先生が困るだろうから、しない……。



そう自制すると、とても胸が苦しくなる。



私の涙は、先生を好きになっちゃいけない涙にも思えた。
私が先生を好きになったって、先生は私を好きにはならないから。


彼女ってどんな人だったんだろう。
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