先生、もっと抱きしめて
先生は「マツタクって言うのやめろ」と制しながらも、バツが悪そうに耳を掻きながら、揺れるカーテンに視線を移した。

「でもオレもがんばってんだから、三好もやれ!」

「う、うん」

「補習、明日とあさってもやるぞ。あさって再追試な。それで終わり。今日宿題も出すから」

えーっ。
なんて言える立場にないのでとりあえず頷く。

……彼女、今までいたんだあ。
先生、耳赤い。


「ハンカチ、洗って返すね」

「ああ、別にそんなの」

形の良い指が、すっと伸びてきて私の握っているハンカチに触れた。
私が手を緩めると、ハンカチはあっさりと取られ、先生と目が合う。


「まだ、まつげ濡れてる」

「え」

「ちょっとごめん」


優しく押さえるように私の目元を拭くと、先生は何もなかったようにハンカチをポケットにしまった。


な、なに、今の……。

トクトクと鼓動が高鳴る。


『先生』が急に、男の人に見えてきた。
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