先生、もっと抱きしめて
「帰ろうか」

そう、先生から切り出した。

そこでようやく手が離れる。


……苦しい。


気が進まないまま、助手席に乗る。
この時間がずっと続いてほしいほどなのに、現実に引き戻される。

「シートベルト」

「あ、うん…」

ぼーっと座ってただけの私に、マツタクは笑いながらベルトを引っ張った。
体が少し重なって、心臓が暴れた。
ふっと、先生の匂いがする。


「ここほどきれいじゃないけど、天文部で観察する星空もきれいなんだよ」

先生が話し始めるので、私はベルトをかちゃりと嵌めながら先生を見た。


「オレも、ここに来たの初めてだよ」

「先生にも、はじめてのことがあるんだ……」

「そりゃああるよ」

眉を下げて笑うマツタクは、とってもかわいい。
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