狼社長の溺愛から逃げられません!
あのイベントの翌日から、社長はカナダへ旅立ってしまった。トロントで開催される映画祭に参加するためだ。
最初から予定されていた出張だってわかってる。
そんな多忙な中私と一緒に過ごしてくれて嬉しいと思う。
だけど、だけど……。
「朝、部屋を出る前にひと声くらいかけてくれてもよかったのに……」
スイートルームの大きなベッドでひとり目を覚ましたとき、寂しくてたまらなかった。
ダイニングテーブルにおかれたメモには、私を残して先に部屋を出ることを短く詫た文と、『あんまり気持ちよさそうに爆睡してるから、起こせなかった』という意地悪な皮肉が書かれていた。
その手紙を読んだとき、社長にいったいどんな寝顔を見られてたんだろうと、恥ずかしくて叫びたくなった。
少しクセのある右上がりの社長の文字。
捨てられずにポケットにしまってあるそのメモを、そっと取り出して眺める。
社長の顔を見て『いってらっしゃい』って言いたかったな。