狼社長の溺愛から逃げられません!
だけど、勘のいい華絵さんはなんとなく察しているようで、意味ありげに笑う。
「社長はトロントのフィルムマーケットだっけ?」
華絵さんの言葉にうなずく。
カナダのトロント国際映画祭に併設されて行われるフィルムマーケット。
すぐれた映画を取り引きするために、世界中からセラーやバイヤーが集まる。
もちろんシネマボックスからも、洋画の版権を買い付ける映像契約部のバイヤーが毎年参加していた。
期間中は朝から晩まであちこちで開催される試写会をはしごして、一日何本も映画を見る。
その間に製作中の脚本にも目を通し、世界中の映画制作会社と交渉し契約する。
とにかく時間が惜しいからと、映画の内容が希望するものと違うと判断すれば試写会の上映開始十分で見切りをつけて席を立ち、違う試写会の会場へ向かう、なんてこともよくあるらしい。
売る側も買う側もかなりシビアな世界だ。
海外の映画の配給権を獲得する仕事は、精神的にも肉体的にもよっぽどタフじゃないとやっていけないくらい厳しらしい。