狼社長の溺愛から逃げられません!
とても仕事に集中できる気分じゃなくて、必要最低限のことだけ片付けて家に帰ろうとしていると、誰かがふらりとオフィスに入ってきた。
「有川さん、いるー?」
遠慮のない声でそう呼ばれ顔を上げると、そこにいるのは小笠原さんだった。
ぎょっとして立ち上がる。
「一体会社になんの用ですか?」
慌てて小声で言ってかけよると、「話があったから」と平然と言う。
「これ、この前落としてたよ」
そう言って、指先で挟んだメモをひらひらと動かす。
それを見て、目を見開いた。
イベントの次の朝、ホテルに社長が残していったメモだ。
道端で焦りながら名刺を取り出すときに、落としてしまったんだろうか。
慌てて小笠原さんの手からメモを奪おうとすると、ひょいと手を上げられ唇を噛む。
「これって、黒瀬の字?」
必死で手を伸ばす私をあしらいながら、ヒラヒラとメモを振って小笠原さんがそう言った。
当てられてかっと頬が熱くなる。
なんとか誤魔化そうとうつむくと、「あんたほんとわかりやすすぎ」と嘲るように笑われた。