狼社長の溺愛から逃げられません!
 

「黒瀬と、そういう関係なんだ?」

明らかに一緒に夜を過ごしたことが分かる文章に、小笠原さんが冷たく言う。
どうして私はこのメモを落としてしまったんだろう。
自分の不注意さに腹が立った。

「お願いだから、やめてください……」

会社でこんな話をされたら、社長に迷惑がかかる。
そう思って必死に奥歯を噛みながら声をひそめて言う。

「ふーん」

怒りをぐっとこらえて冷静でいようとする私を、小笠原さんが面白がるように見ていた。

「あれ、小笠原さん」

オフィスでそんなやりとりをしていた私たちを見て、宣伝部の部長が近づいてきた。

評論家の小笠原さんとは顔見知りなのか、親しげに声をかける。

「保元部長、おひさしぶりです」
「今日はどうしたの?」
「ちょっと個人的に有川さんに用があって」

小笠原さんは涼しい顔でそう言いながらこちらを見る。

そして部長には見えない角度であのメモを私に見せながら、「有川さん。これから少し付き合ってもらってもいい?」と人の良さそうな声色で言った。



< 184 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop