狼社長の溺愛から逃げられません!
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会社は、カナダから届いた知らせに浮かれてお祭り騒ぎだった。
トロントのフィルムマーケットで一番の話題作だった洋画の配給権を、シネマボックスが獲得したからだ。
みんな喜びに浮かれながら、社長の手柄を口にする。
公開前からすでに来年の賞レースの大本命に挙げられている大作。それをうちの会社で配給できるなんて誇らしい。
だけど……。
素直に喜べないのは、小笠原さんからさんから五年前のことを聞いてしまったからだ。
日本では、その映画の内容はもちろん、違う理由でも話題になっていた。
五年前に日本の芸能界から姿を消した元女優の篠原紗英さんが、アメリカに移住して映画プロデューサーになっていたことがトロントの映画祭で大々的に報じられたからだ。
紗英さんが手掛けたのが、今回社長が配給権を獲得した映画。
いろんな会社が欲しがる映画の配給権を、どうやって社長が手に入れたんだろう。
もしかしたら社長はまた、彼女のことを利用して映画を手に入れたのかな。
小笠原さんの言葉を鵜呑みにして疑ってしまいそうになる自分が嫌で、喜ぶみんなから目を背け唇を噛んだ。