狼社長の溺愛から逃げられません!
 

「向こうの知り合いって、紗英さんですか……?」

消え入りそうな震える声でそう問うと、社長は何で知っているのか不思議そうに眉をあげ、でも平然と頷いた。


紗英さんとキスをする、映画の一場面のようなふたりの姿を思い出す。
社長はこの唇で、あの綺麗な人とキスをしていたんだ。

気まぐれでもいいと思った。
騙されていていてもいいと思った。

社長にこうやって触れてもらえるなら、利用されているだけでもいいと思ったはずなのに、心が擦り切れるように痛んだ。

「……いらない」
「は?」

ぽつりと言った言葉に、社長が眉をひそめる。

「ほかの女の人が選んだお土産なんて、いりません……!」

ぐっと歯を食いしばりながらそう言うと、社長が不機嫌な顔でこちらを見た。

「お前、なにいじけてんだよ」

私は慌てて社長から顔をそらした。
感情が高ぶって、涙が溢れそうになるのを必死にこらえる。


脳裏に浮かぶのは、紗英さんとキスをする社長の姿。



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