狼社長の溺愛から逃げられません!
人が行き交う交差点をぼんやりと眺めていた。
足早に歩くサラリーマン。楽しげに笑いながら進む女子高生。スマホを見ながら器用に歩く男の人。ベビーカーを押す若いお母さん。
色々な人がいて、色々な人生があって、それぞれいろんな悩みがあって、それでもちゃんと生きている。
悩んでいるのは私だけじゃない。
それなのに、逃げ出してしまった自分が情けなくて、歩道沿いにある花壇のレンガの上に腰掛けてはぁーっとため息をつく。
……なにをやってるんだろう。
こうやって逃げ出しても、なんの解決にもならないのに。
とはいえ、とても会社に戻る気にはなれなくて、抱えた膝に顔をうずめる。
社長のことだけじゃなく、小笠原さんの批評のこともちゃんと考えなきゃいけないのに……。
しばらくそうしていると、どこからか視線を感じた。だれかにじっと見られてる気がする。
不思議に思ってふりむくと、真ん丸の黒いレンズが至近距離でこちらに向いていた。
「わ……!」
驚いて思わず後ずさる。
ぱちぱちと瞬きをしていると、レトロなカメラを持った男の人がこちらを見て笑っていた。