狼社長の溺愛から逃げられません!
 

「あいつ本当に仕事出来る男だからさ、前の会社で笑えないくらいの年俸もらってたの。実際作品嗅ぎ分ける嗅覚に長けて行動力も才能もあったからもらった金額以上の働きは十分にしてて、将来はアメリカ本社の役員入り間違いないんじゃないかって噂されてたくらい」

八ミリカメラのファインダーを覗きながら如月監督がそう言う。

「でもさ、シネマボックスの前社長に口説かれて、すっごい年俸も役員の椅子も簡単に手放して会社やめちゃったんだよね。みんな驚いたよ」

そのカメラがこちらに向いた。黙り込んだままの私をじーっと撮影しながら監督が笑う。

「だってさ、その頃のシネマボックスなんて、よっぽど映画好きじゃないと名前も知らない小さい会社でさ。いくら社長だって言っても、給料四分の一くらいになったんじゃないかな。不思議に思って聞いたの。『前の会社にいたほうが金だってたくさんもらえるし、興行記録を塗り替えていくような大作映画にどんどん関われるのに、なんでわざわざそんな小さい会社の社長になったんだよ』って」

頷きながら息を飲んで言葉を待つ。
今から五年前の社長は、なんて答えたんだろう。


 
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