狼社長の溺愛から逃げられません!
 



「……なんだあれは」




マスコミ向けの小規模な試写会。
その様子を見ようと、オフィスのひとつ上のフロアにある社内試写室に足を運ぶと、受付のあたりにいるふたりのやり取りが目に入り、眉をひそめた。

ひとりはうちの社員。
去年入社したばかりの、有川美月だ。

そして、もうひとりは……。

「社長。あれ広告代理店の営業ですよ。シネアドの」

いつの間にか俺の隣にいた内田華絵が、俺の視線に気づいて小声でそう言う。
映画が上映される前に、劇場のスクリーンで流されるCM。cinema advertisingを略してシネアドだ。

「……あそこの会社は最近あまりいい噂を聞かないな」

内田の言葉を聞いて、つぶやきながら有川に言い寄る男を眺める。

最近入った営業が、女癖が悪くてあちこちで問題を起こしているという悪評を小耳にはさんだ記憶がある。
……それがあいつか。いかにも遊んでいそうな、軽そうな男。



 
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