狼社長の溺愛から逃げられません!
動揺を悟られないようにこっそり深呼吸をしていると、長い指が私の書いたキャッチコピーの上をなぞった。
そして、『この映画を見れば、きっとあなたも踊りたくなる』そう描かれた一文で指が止まる。
「例えば、この『あなたも』って誰のことだ? 誰にこの言葉を届けたくてこのコピーを書いた?」
「それは、映画のターゲットの二十代から三十代の女性に……」
「だったらもっと考えて言葉を選べ。ここにあるコピーは全部ターゲットが曖昧すぎて使えない。やりなおしだ」
「な……!」
頑張って考えたのに、ぱっと見ただけで全部却下なんて……!
目を見開いて絶句した私に、社長はさらに恐ろしいことを言う。
「明日までに、新しいキャッチコピーを百個考えてこい」
「ひゃ……っ!?」
あまりに多い数字に驚いて涙目になっていると、凍りつきそうなほど冷たい視線に見下される。
「できないのか?」
明日までに百個なんて。この二十個のコピーを考えるのだって、かなり悩んで苦労したのに……。
でも、はじめて宣伝を任された作品なんだから、できないなんて言いたくない。
「やります! がんばります……!」
ぎゅっとペンを握りしめそう言うと、社長はおもしろがるように鼻で笑った。
「せいぜい悩んで考えろよ」
そう言い残し、社長室へと歩いていく。その背の高い後姿を見つめながら、私は頬を膨らませて顔をしかめた。