狼社長の溺愛から逃げられません!
 

そして私は、強張った表情で胸ぐらをつかまれたままの努のことをじっと見る。

「……私、ずっと二番目だったの? ずっと二股かけられてたの?」

静かな口調でそう聞くと、努は気まずそうに視線をそらした。

「ずっとって、わけじゃねぇけど」
「一年前の浮気のあとくらいから?」
「まぁ……、そうだけど」

二番目なんて言われても冷静でいる私に、努は調子が狂ったようにぼそぼそとそう言う。

「……そうだよね。浮気のあと、私すごく疑い深くなったもんね。一緒にいても居心地悪かったよね」

私がそう言うと、努は口をつぐんだ。

「突然約束をやぶられたり、いきなり呼び出されたり、ずっとなんでだろうって不思議だったけど、ほかにも女の子がいたんだって分かったらなんか納得できた。付き合ってたのに、私も努も、もうとっくにお互いを好きじゃなくなってたんだね」

人間同士付き合ってるんだから、どちらかが百パーセント悪いってわけじゃない。

付き合い始めの頃の努は本当に優しかった。一緒にいるだけで楽しかった。
だから努だけを悪者にして大切な思い出まで否定したくなかった。
変わったのは、どちらかじゃなく両方なんだ。
そう思いたかった。


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