狼社長の溺愛から逃げられません!
私の言葉を聞きながら、社長が無言で努の襟元から手を離した。努は少しふらついて、でもこらえて自分の足で立つ。
「……もう二度と、こいつの前に顔を見せるな」
社長が冷たい声でそう言うと、努は顔をしかめながら頭を下げた。
きびすを返し歩いて行く見慣れたうしろ姿を、涙をこらえながら見送る。
そんな私を見て、社長はため息をついた。
「一発くらい殴らなくてよかったのか」
そう問われ、苦笑しながら首を横に振る。
「いえ、勉強になりましたから。次からは、もし浮気されても許したからには疑わずに信じなきゃだめだって思いました」
「バァカ。浮気する男と付き合う時点で、見る目がないんだよお前は」
乱暴にそう言われ、じわりと目頭が熱くなった。
「社長。もしかして、努が二股をかけてたことを知ってたんですか……?」
何度も男を見る目がないと言っていた社長の言葉を思い出し、手で顔を隠しながらそう聞くと、社長が静かに頷いた。
「まぁ、業界の噂も悪口も、嫌でも聞こえてくるからな」
その答えに、うつむいていた顔を上げた。
冷血で俺様な社長なら、二股をかけられてるぞとはっきり言いそうなのに、どうしてずっと黙っていたんだろう。