振った男 振られた女〜20年〜
それなのに

また

その時は ふいに 来た

彼の消息を知った

いつものクリニックの
いつもの待合室

冊子の中に 彼はいた

私のケガの専門医になっていた

冊子の中の彼は穏やかに微笑んでいた

別れ際にみた彼とも
子供を抱いていた彼とも
違ってみえた

初めて会った時の彼のようだった

写真をみただけで
この何年かの理性も 忍耐も

一瞬のうちに体から剥がれ
声すらでなくなった

それから私は
憚らず泣いて暮らした

今さらなぜ泣くのか
得体の知れない涙だった

日常の感覚をなくした私は
何がどうなったのか覚えていない

朝が夜になり 夜が朝になる
それだけだった
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