好きな人が現れても……
あの時は明らかに怒ってるような表情だった。
背後に立ってた営業部の紺野は、慌てる様な素振りだったが。


『野村課長、丁度いい。横山を止めて下さいよ。こいつ、好きな男の言いなりなんですよ。今度、そいつの家に行って……』


あの時、必死になって彼の言葉を止めた。
俺に振り返った横山は真剣な表情で、『真に受けないで下さい!』と言って逃げた。


紺野を見ると苦虫を潰した様な顔をしていて、何があったのかと聞いたら、『いいんです』と吐き捨てられた。


痴話喧嘩かと騒ぐ奴らも周りにいて、そうなのかな…と首を傾げて去ろうとした。



『野村課長』


食事をしようとしていた手を止め、紺野が俺を呼び止めた。
振り向くと申し訳なさそうな顔つきでいて、『伝言頼んでいいっすか』と立ち上がった。



『いいよ。別に』


仲裁役だな…と思い、紺野の向かい側に腰掛ける。
紺野は椅子に座り直し、ハァーと思いきり深い溜息を吐いた。


『横山に……言い過ぎてごめん、と伝えて下さい。全部、俺の嫉妬だから…と』


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