好きな人が現れても……
咎めるともう一度「ちぇー」だ。
男と一人で育てると娘はこうも扱い難いものなのか。


(こんなことだから新しい嫁を貰えとか言われるんだな)


やれやれと息を吐き出した。
取りあえず、横山には明日礼を言っておこう。




……その夜、横山の作ってくれたおかずをツマミにしてビールを煽った。

きんぴらやキューリのサラダも美味かったが、何より小アジの南蛮漬けが最高に美味くて唸る程だった。



「横山さんならいい嫁さんになれそうだな」


感心するように呟いた一言を誰かに聞かれてないかと心配した。

妻が亡くなってから、久し振りに若い女性が作った料理を食べたせいだろうか。


頭の隅っこに千恵の姿が引っ掛かっている。
昼間真央に言った言葉は嘘ではないが、こういう物を食べさせられると、少し女々しくなってくる。


テーブルに肘を付いて髪の毛をクシャと掴んだ。

胸の奥から湧き上がってきそうな思いを打ち消すように、ビールを一気に煽った。



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