好きな人が現れても……
足を引きずるように歩いて階段を上がり、サボる為に作られたと聞いた屋上のベンチに向かった。

課長は冗談だと笑ってたけど、実際サボりたくなる様な場所にあるアイアンベンチ。

真夏の光を遮る位置に置かれた鉄の冷たさが恋しかった。


ドアノブに手をかけると惰性のように押し開ける。
眩い光に目が暗み、反対の手で日差しを避けながら外へ出た。


壁際に沿って回り込んだところで足が止まる。
まさか、今日に限って此処で食事をしてるなんてーーー




「横山さん…」


黒いランチケースを膝に乗せた課長が驚いた様な声を出した。
私はその場から逃げたくなる気持ちを堪え、偶然ですね…と発声した。


「何となく外の空気が吸いたくてね。君も今から?あ…でも食事は?」


空っぽの両手を見つめて聞かれ、さっと後ろに隠してしまう。


「今日は少し夏バテ気味で。食べる気にならないので作らなかったんです……」


ホントは違うけど…と思いつつ、取りあえず逃げられないから陰に入った。


「こっちに座れば?顔色悪いよ」


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