好きな人が現れても……
振り向くと落ち込んだ顔つきで、「ちょっといいっすか?」と誘われた。


飲むには早いから駅の構内にあるカフェへと入った。
コーヒーを頼んだ後、紺野は悄気ながら俺に言った。


「昨日……やらかしました」


反省するように言うもんだから仕事上のミスでもやらかしたのかと思った。
紺野はまたしても息を吐き、横山にキスをした…と告白した。



「えっ…」


思わず驚きの声を上げる。
目を見開いたままで紺野を見てると、バツが悪そうに「酔いに任せて」と弁解した。


「横山が報われそうにもない片思いをしてるのを見るのが辛くて。
そんなに切なそうにするなら俺のことを見ればいいって気持ちが溢れてしまって。

……軽率でした。そんな強行に出たら益々靡かないと分かってるのに……」


悔しそうに話す言葉を黙って聞かされててもいいのだろうか。

紺野が想う相手が思っているのは、今目の前にいる俺だというのに。


「焦り過ぎてました。…俺、横山をそいつに取られたくなくて…」


まるでガキですよね…と愚痴る男に、そういう時もあるさ…と言うのは簡単だ。
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