好きな人が現れても……
インターホンを鳴らしてオーダーをした後、相川さんはドリンクバーに向かう美杜ちゃんの背中を目で追いかけた。


「……野村課長の奥さんが亡くなった頃にあの子の父親と離婚したの。
何とか三人でやり直せる道はないかと思って頑張ったけどダメだった。

…でも、私は後悔しない生き方をしようと決めたの。美杜と二人で、笑って生きることにしようって。

オフィスでは多少煙たがられても平気よ。大事な我が子がいるし、あの子が大きくなっていく楽しみもあるから。

美杜が大人になったら、あの子と二人でショッピングしたり、旅行しようね…って言い合ってるの。叶うかどうかは分からないけど、そこに不安は何もないのよ」


母親ってこうも強いものだった?
目を見張る私の前で、相川さんは深い吐息を漏らした。


「……だけど、こんな私でも言えない思いや言葉はあるわ。
子供がいるから余計にあれこれ考えるし、言いたいことも言えなくなったりもする。

さっき、葉月がボソッと言った人もそうだと思うの。
彼には子供だけでなく、亡くなった人への義理立てもあるだろうから。


一筋縄じゃ片付けられないのよ。
彼にしか分からない苦悩があるの……」


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