好きな人が現れても……
助手席の真央はブーケの中に顔を突っ込み、時々匂いを嗅いでは笑顔を見せている。

白いカスミ草の中に咲くオレンジ色のミニヒマワリ。


千恵はこの花束のような女だった。
常に明るくてハッキリとしていて、ブレがなくて。
太陽みたいに朗らかで、温かだったーーー。




(千恵……今日は親子クッキング教室だったよ……)


拝みながら報告する。
遺影の千恵は、俺と知り合った頃と同じくらいに若い。


(君が作ったエプロンを俺が着た。周りから褒められて照れくさかったよ)


長く話しかけてると俺のシャツを引っ張り、遊ぼう…と真央が言いだす。

もう少しお話させてあげなさい…と義母が言っても、ひろと公園に行きたいんだもーん!とひっくり返って足をバタつかせる。


日頃は休日もゴロゴロと過ごすことが多いから、ここぞとばかりに甘える真央を義父母はやれやれ…という顔つきで見つめた。


「…よし、じゃあ、じーじと公園に行こうか」


義父が気を利かせてくれたが。


「いやー。ひろがいいー!」


「ばーばは今日のクッキング教室のことを教えて貰いたいのになぁ」


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