好きな人が現れても……
無理を言ってるのはこちらなの。おかげで毎日、千恵と顔を合わせることができるわ。

…それに、これは千恵が生前に願ってたことだから、私達としては娘の意向に沿っているだけよ」


「えっ…千恵が願ったんですか!?」


初めて聞くことに驚いた。
義母は静かに微笑み、仏壇の狭い引き出しから一通の封筒を取り出した。


「…これ、千恵から生前に預かってたものよ。約束通り亡くなってから丸三年も過ぎたし、そろそろ渡した方がいいのかなって思うから、差し上げておく」


パステルブルーの封筒だった。
表には懐かしい文字で、『貴大さんへ』と書いてある。


しっかりとした筆圧の強い文字。
それを見たまま無言になった。


「帰ったら読んで。そして、その中の意向に沿えそうだったら沿ってやって」


お願いね…と言われて深く頭を下げられる。
ぼうっとした状態で受け取り、取り敢えず、はい…と怪訝そうに返事をした。


< 179 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop