好きな人が現れても……
手放すことは私との思い出を捨てることでも何でもない。

そのピアノが他の誰かの役に立つことで、私の思い出も色褪せずに残っていくの。


一日も早くその日が来ることを願っています。

どうか私の願いが叶いますように。


それから、一つだけお願いがあるわ。

私の誕生日にはお墓参りに来て、そして、今ある生活を話して聞かせて。


ノロケ話でも苦労話でも何でもいいから、二人だけでいる時間をどうか私に与えて下さい。



貴方に会えて幸せだった。

だから、未来は貴方の為に使って下さい。

好きな人がいたら自分から告白をして、一緒に生きて欲しいと願ってね。



さよなら私の恋人。

いつまでもどうか、お幸せで。



千恵』




最後まで淡々とした文章だった。
なるべく同じような語り口で、終始居たかったのだろうと思う。


それを見ながらこっちは涙が溢れた。
ピアノの前に千恵が座ってるように見え、こちらを向いて、切なそうな顔で笑っている。




「千恵……」


君は本当に俺の再婚を望むのか。
下手をすれば自分が忘れられてしまうかもしれないというのにいいのか。



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