好きな人が現れても……
本心からそれを望んでいるとは思いたくないが、全く望んでないなら手紙なんてものも残さないだろう。


生きていくことを楽しめと言ってるのか。
辛さだけを背負って生きるなと言いたいのか。



「だけど、千恵、俺は怖いんだよ……」



また誰かを失うんじゃないかと思うと怖い。
絶望感に襲われて、今度こそ立てなくなるんじゃないかと思うと恐ろしい。


もうあんな思いはしたくない。
好きだと思う女を助けられなかった、そんな自分を思い知るのが嫌だ。


そんなことになるくらいなら、最初から恋なんてしない。
例えどんなに好きな人が現れても、一人で生きていく方が気楽だ。


幸いにも俺には真央がいる。
あの子がいれば、俺は十分幸せな気分でいられる。


あの子のことだけを見て考えるだけでいいんだ。
それ以外はどうでもいいんだから。


涙に暮れながら手紙に目線を落とした。
揺らめく視界の中に千恵の書いた文字が映っている。



『未来は貴方の為に使って下さい。……………さよなら、私の恋人。』



「……さよならなんて言うなよ…まだ三年しか経ってないのに……っ!」


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