好きな人が現れても……

譲れない……

課長に歩き出してと願ってからの数日間、オフィスに向かうのが辛かった。

庶務課のドアを開ければ彼がいて、いつもと変わらない様子でおはようと挨拶される。

胸の奥を軋ませながらおはようございます…と返し、一日を平然と過ごすのも苦痛だ。

部署にいれば嫌でも姿が目に入るし、声を聞きたくないと耳を塞ぎたくなっても、心の何処かではずっと聞いていたいと願う自分がいる。


恋はしないと言った課長は、あの日から何も感じずに日々を過ごし、実家へ引っ越す準備を着実に進めているのだろうと思う。


愛した人が残した一粒種のことを思い、その成長だけを楽しみにしてーーー。




（はぁ……）


フロアの非常階段の踊り場で深いため息を吐いた。
このところ、お昼休みは此処で過ごすのが常になってる。

暑いけどビル街を抜けていく風が時々吹いて気持ちがいい。
嫌なことも忘れさせてくれそうで、少し気分が落ち着く。


こんな毎日をどれだけ送れば課長のことを思わずに過ごせるようになるだろう。

あれから四日が過ぎても私の気持ちは一向に冷めていかず、むしろ前よりもっと彼を好きだと思ってるのに。