好きな人が現れても……
そんなにバリバリと仕事をこなせる方でもなかったから、つい遅くまで居残ってたんだ。



『人の分の仕事までやらなくてもいいんだよ』


まさかそこまで見てるとは知らず、『は、はぁ…』と笑ってごまかしてその場を逃げた。

なかなかどうして侮れないぞ…と感心してると、たまたま帰りの方向が二人だけ同じだった。


私は忘年会の席で少し飲まされ過ぎてたせいもあって、頭がフワフワとしていて足元もグラついてた。

そんなに強くもないアルコールをその場の雰囲気を壊さないように気遣い、飲んでたのがいけなかったらしい。



『大丈夫か?』


心配してくれる人が既婚者の課長で良かったなぁ…と、ボンヤリした頭で思った。


『平気です。取り敢えず歩けてますし』


きっと締まりのない顔で笑って言ったんだと思う。
課長は返って疑うような視線を見せて、呆れるように少しだけ笑い返してくれた。


『横山さんは人がいいな』


そう言って唇の端っこを上げ、いつも少し垂れ気味な目尻をもう少しだけ下げた。


その目尻に寄ったシワがキュートだなと思い、まじっと見てしまったら、課長が不意に真面目な顔をして。


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