好きな人が現れても……
居酒屋の料金は折半し、紺野君は「照れもあるから一人で帰れよ」と店を出てから言った。


気を付けて…とお互いに声を掛け合ってから背中を向ける。
歩き出す足音が聞こえたから、自分もゆっくりと前へと進みだした。


歩きだしながら店内で聞いた言葉を思い返した。
同期の彼が嫌いな訳ではないし、彼の言う通り、行き場のない気持ちを向けれたら、きっと今よりかは楽になれるのだろうと思う。


返事は直ぐでなくてもいいと紺野君は言ったけど、彼に向けようと思うなら少しでも早い方がいい筈。


躊躇ってると向けなくなる。
少しでも早く返事をして、お願いね…と言うのが一番だというのは分かる。


だけど、そうしたら私の片思いの日々は何処へ行ってしまう。

課長の姿を追って、声を聞いて、ときめいてた日々が全て台無しになってしまう。


何も残らないまますり替わって、それで私は満足なんて出来るのだろうか。

違う人に向き合えれば、それらを全部チャラに出来る日が来るの?


そもそも今夜は杏梨ちゃんのことを話すつもりだったのに、どうしてこんな形で終わってる?


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