好きな人が現れても……
何処かに陰でもあればな…と見てたら、歩いて上がって来た課長が汗を拭きながら声をかけた。


「どうした」


息を切らして額に汗が光ってる。
そう言えば課長のハンカチを借りたままだったと思い出しつつ、「暑そうなので迷ってました」と正直に言った。


「ああ、だったら…」


課長はスルッと私の横を抜け、アルミのドアを大きく開いて出て行く。
そうされると追いかけるしかなくて、私は日差しの中に思いきって出てみた。


「この時間帯は陰が少ないけど、確かこの裏辺りなら…」


ドアを囲むセメントの飛び出し部分を回り込み、日差しの降り注ぐ反対側に着くと、少しだけ日陰になってる辺りにアイアンベンチが置かれてある。


「ここは穴場なんだ。就業中にもこっそりサボれるように…と作ってある」


「えっ、ホントですか!?」


そんな話は初めて聞いたと驚くと、課長は笑い出して「冗談」と言う。


「そんな話はないよ。でも、実際に此処でサボってる奴はいそうだろう」


ベンチに座りながらそう話し、なんだ…と思いつつ自分も腰掛けた。


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