好きな人が現れても……
陰になったベンチは冷んやりとして気持ちいい。

カチャカチャと箸箱の音を立てながらランチケースを取り出す課長の手元を見ると、今日のお弁当も可愛かった。

メインのスコッチエッグはうずら卵で作られてあって、花形に抜かれた人参が彩りに添えてある。
他にはナポリタンマカロニにミニトマト。茹でたコーンとブロッコリーのサラダ。
鮭フレークが混ざったご飯が三角形に握られてて、もう一つには梅干しが混ざってた。


「今日も可愛くて美味しそう。お母さんの手作りですか?」


課長に聞くと、困ったようにはにかみ、「まあね」と答える。
お上手ですね…と褒め、自分のお弁当のフタを開けた。


「おっ、今日はいなり寿司!?豪華だなぁ」


「これ簡単なんですよ。いなりの皮は市販の味の付いてるので、すし酢も市販のものだし。こっちのマリネは夕飯の残りをそのまま入れてるだけで、お手軽過ぎるお昼ご飯なんです」


いなりの皮は余れば冷凍保存も出来るし、他の料理にも流用できます…と言うと、ああ、成る程…と納得される。

課長に自分の手抜きぶりを教えてどうするんだ…とツッコミたくなり、照れ隠しにいなり寿司を箸で切った。


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