ワンス・アポン・ア・ナイト


それでも『苦しいばかり』というのは、正確ではありませんでした。
だって、苦しいけれど、私は前よりずっと幸せでしたから。

あなたは私に本当に素晴らしいものを、たくさん残してくれました。
たくさん教えてくれました。

二度と会うことはなくても、きっとあなたはどこかで私たちを見ている。
そう信じて。
その時あなたを落胆させないように、背筋を伸ばして生きてきたつもりです。


私にも夫にも似ていない息子は、母方の祖父にやや似ていると言われています。
とても賢く、優しく、みんなから愛されて育ちました。

「この髪も目もお父様譲りね」

そう言って撫でられる息子の左肩に、小さなほくろがあるのは、きっとあの夜私が何度も口づけたせいでしょう。

幸せの形は変わったけれど、胸がつぶれるような苦しみも伴っているけれど、あなたと出会ったことを後悔したことはただの一度もありません。

だけど、そうですわね。
ひとつだけやり直せるなら、あの朝もっと早起きして、あなたと「おはようございます」と笑い合いたかった。
何かに不自由を感じたことなどなかったのに、こんな些細な願いすら、私には叶えられないのです。



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