ワンス・アポン・ア・ナイト
礼儀知らずなあなたは、不躾なほど真っ直ぐに私を見ます。
「姫さまは、昔より……いえ、昔はもちろんお綺麗でしたけど、さらにずっと、お綺麗になられました」
「あれから何年経ったと思ってますの? そんなはずありませんわ」
「いえ、この花なんて」
と、活けてあった薄紅色の薔薇を、ずいぶん白くなってしまった私の髪に差しました。
「むしろ今の方がお似合いです」
悪戯が成功したように、あなたの声は生き生きとしています。
「姫さま、真っ赤ですよ」
「……鏡がないからわかりませんわ」
「でもほら」
あなたは冷たい両手で、私の顔をやさしく包み込みました。
「熱いです」
言葉をなくす私を包んだまま、あなたは真剣な声を落とします。
「絵が描けたら、と思っていました。絵が描けたら、いつでもあなたを目の前に現すことができるのに、と」
「仮初めにも“絵師”ですのよ。発言が不適切ですわ」
「では立派な“絵師”になるまで、おそばに置いていただけますか?」
ただの絵師見習いの分際で、立場をわきまえない人ですこと。
妙な絵師に入れ揚げたりしたら、私の評判だって落ちてしまいますわ。
そんなこともわかっているくせに、あなたったら全然断られるなんて思っていないではありませんか。
もう、本当にどこまでも図々しく、腹立たしい人!
「それは永遠より、もっと時間がかかりますわね」
end
「……やっぱり、何か、薬を?それとも毒かしら?」
「まさか」
「だって、あまり身体には良くなさそうですわ」
「病気じゃありませんよ。きっと治らないし、治さないでください。どうか、ずっと」