ワンス・アポン・ア・ナイト
「また寝てしまうところでしたわっ!」
床にへばりつくようにしているあなたに、とても苛立ちました。
世の中の殿方とは、これほどまでに意気地がないのかと。
「とにかくここに座ってくださらない? この体勢では話もしづらいの」
寝台の端を叩くと、あなたは気重そうにやってきて、申し訳程度に座りました。
近くで見つめ合った瞳は、本当に夫とよく似た色で見慣れたもののはずなのに……。
━━━━━全身がざわっとしたのを、今でもはっきりと覚えています。
「あの、本当によろしいのですか?」
「もちろんよ」
「俺のことをよく知りもしないのに?」
「知らなくても子は為せますわ」
「参ったなあ」とあなたは頭を掻いて。
そんな仕草は初めて見たので、少しだけ驚いたのです。
「俺は、できればもう少し親しくなってからの方がやりやすいんですけど」
王家の繊細な事情は他の誰にも漏らせません。
このことは夫さえ知らないのです。
だから私の病気療養という名目で、田舎の避暑地まではるばるやってきたのに。
「こういうことには時期というものがあります。今夜を逃せばひと月先になりますわ」
「そうですけど……」
結局あなたは煮え切らなくて、私の方が折れたのでしたっけ。
「では、ひと月後で結構です。それまでに心の準備をしてくださる?」
どうせ一度でできるはずないのだから、私はそう提案して。
「とりあえず、今夜は一緒に眠ってください。朝まで出ることは許されませんから」
あなたは小さくなりながら、恐る恐る私の隣に入ってきました。
あの時、本当は少しだけ、私も緊張していたの。