ワンス・アポン・ア・ナイト
「つまり……あなたは私を好きではないから無理だ、と言うの?」
言葉に出してみると、なんだか胸が痛くて。
あなたが何て答えるのか、知りたいような、知りたくないような。
祈る気持ちで見ていたから、あなたはとても困ったように慌て出しましたね。
「あー、えーっと、その、あの、その点は、ご心配ない、です。むしろ……」
「むしろ?」
「…………」
「…………?」
「あ、いや、何でもないです。忘れてください」
「そう?」
「……はい」
「顔が真っ赤ですわよ?」
「それは、姫さまも同じです」
「……鏡がないからわかりませんわ」
「でもほら」
あなたは恐る恐る私に手を伸ばして、ほんの少し、かすめるように私の頬に触れました。
「熱いです」
あなたの指は固くてくすぐったくて、鼓動がとても速くなりました。
よくよく見ると、あなたの目は夫のものよりわずかに濃くて、ちょうどモミの木の蜂蜜のような、とろりとした褐色です。
そう思ったら、顔だけじゃなくて、手も、足も、このあたり全部が、熱くなりました。
そんなこと、言えるはずがありません。
「あなたの指先が冷たいのですわ」
「では、そういうことにします」
「ええ」
あなたはあの夜眠れましたか?
私は全然眠れませんでした。
あなたの呼吸で寝具がわずかに揺れる、その振動を、ずっと感じていました。
朝方いつの間にか眠っていた隙に、あなたはいなくなっていて。
あれは、実は夢だったのではないかと、半分本気で思ったり。
まんまとあなたのことばかり考えて、ひと月過ごしてしまいました。
本当に腹立たしい人!