ワンス・アポン・ア・ナイト
◇ Prepare yourself, please.
━━━━━ひと月の後。
当然のごとく子などできなかった私の前に、あなたは笑顔で現れました。
今夜はあなたが来ると知っていたから、寝衣を新調して待っていたのに、何の準備もない時に来るなんて、やっぱりあなたって腹立たしい人ですね。
あんまり自然体だから、怒るのもなんだか馬鹿らしくなって、寝衣のことは絶対に言わないと決めました。
「今度はもう少し親しくなってからがいい、とお願いしましたので、」
本来なら言葉を交わすどころか、姿を見ることさえないほど、私たちは隔たっているというのに。
「今日一日、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
あなたは断られるなんて、最初から思っていなかったのでしょう?
『優秀だ』という評価通り、本を読めば私の十倍以上早くて、私はあなたが図書室の本を全部読み切るつもりかと思いました。
私のことなど忘れたように読み耽るものだから、とても面白くありませんでした。
「本なんて読むのはやめて、一緒に絵を描きましょう!」
名残惜しそうなあなたから本を取り上げ、筆記具と紙を押し付けたのだけど、
「これは……熊?」
「猫です」
「猫がどうして二本脚で立っていますの?」
「……どうしてでしょうね」
絵はあまりに悲惨で、同じくらい細かい作業もできなくて不器用で。
「あなたは何なら上手にできますの?」
溜息をつきながら問いかけると、
「あれは得意です」
と、部屋の隅にある遊戯盤を指さしました。
試しにやってみると、何度やっても勝てません。
「少し緩めていただけます?」
結局それでも一度も敵いませんでした。
あれは本当につまらない遊びでしたわ。
全然面白くないのに、蜂蜜色の目が輝くのを見ていたくて、何度も何度も挑みました。
あの日、私は一生分負けたと思います。