キミとひみつの恋をして


誰か一条部長の意識を反らして! と願いながら、さり気なく背中を向けた瞬間──


「そういや、ちーくんはスカウトの話受けたん?」


結城が降った話題に、自分のロッカーの中に手を入れていた三輪君の動きが止まった。

どうして今その話題を出すのか、正直結城の背中にグーパンチしたいくらいだ。

空気を読んで、と。

以前は私に気を使って二ノ宮と2人にしてくれたのに、あの気遣いはどこへ行ってしまったのか。

二ノ宮も三輪君の反応を気にしているのか、笑みを浮かべてはいるものの、どこか固さが見て取れる。


「受けたというより、条件付きだから、それを満たしたら正式に話が進むんだよ」


まずは出されている条件をクリアしなければならない。

正式にスカウトされるのはそれからになる。

二ノ宮がそう説明した直後、三輪君が冷たいロッカーの扉を乱暴気味に閉めた。


「ちょっと先輩たち、うるさいんだけど」


三輪君は誰に目を合わせるわけでもなく、目の前のロッカーを不機嫌そうに睨んで言い放つ。

二ノ宮は、そんな三輪君に「ごめんな」と謝り、申し訳なさそうに微笑んだ。

けれど、三輪君は特に返事はせず、部長に次は何をすればいいのかと指示を仰ぐだけ。

それまで様子を見守っていた他の部員たちは、結城に口パクで文句を言い、対して結城は両手を合わせてしどろもどろになりながら謝罪していた。

どうすればいいんだろう。

どうすれば、三輪くんの心を前に向かせられるんだろう。

いいチームになる為に、私に何かできることはないのか。

ほうきを手に悩んでみるも、打開策は浮かばず。

結局私は、倉庫の掃除に向かわないとならなくなり、微妙な空気になってしまった部室を後にしたのだった。



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