キミとひみつの恋をして


今まで何度か二ノ宮と満員電車に乗ったことはあるけど、こんな、恋人みたいな距離に並んだことはなかった。

心臓がバカみたいに早鐘を打ってる。

何だか暑い気がするのは、車内にこもっている人の熱気のせいだけじゃないのは明白だ。

何か会話をして気を紛らわせようとしたいところだけど、あまりベラベラ喋るのも周りの人に迷惑なので憚られる。

二ノ宮も、何も話しかけてはこない。

……もしかして、困っているんだろうか。

だって……そう、だ。

春休みに入る前に、噂があった。

二ノ宮が、美人だと評判の上級生から告白されたって。

思い出して、心がズンと沈む。

誰かと付き合ってるような素振りは見られないけど、告白されたのは本当なんだろうか。

気になるなら聞けばいいのに、と、私の気持ちを知ってる結城には言われそうだけど、怖くて聞けるわけがない。

もしも「付き合ってるよ」なんて答えが返ってきたら、しばらくは立ち直れないだろう。

確かめる勇気は、今の私にはないのだ。

恋をして、臆病になってしまった私には。

電車に揺られ、心も揺れて。

私は、彼に気づかれないように小さく息を吐き出したのだった。





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