キミとひみつの恋をして


「兄です!」

「は?」


突然、兄と言われて頭が回らないのだろう。

先輩が眉間に皺を寄せて首を傾げたので、私は不自然にならないよう落ち着いて補足した。


「私の兄に、頼まれたみたいで」

「美羽ちゃんのお兄さんて、確か秋明のOBだっけ」

「そうです。その兄と私がいる時に偶然会ったんですけど、その時に妹をよろしくねと」


説明すると、䋝田先輩はこの嘘を信じてくれたのか、興味を無くしたように私から視線を外し、前を向く。


「変な虫がつかないように、ってやつか」

「それですかねー?」


心配性な兄でして、と笑って話せば、先輩は口元に笑みを浮かべて。


「俺は虫でも将来有望なアゲハチョウだから大丈夫だって」


またいつもの軽口をたたいた。

有望なアゲハチョウって意味がわからない。


「夏なのに寒い、風邪ひきそうです」

「じゃああっためてやろうか」

「さ、いきますよー」

「スルーかよ」


ああ、良かった。

これで疑われ続けたらボロが出たかもしれない。

そして、これほどお兄ちゃんの存在をありがたいと思ったことは初めてだった私は、合宿が終わったら兄孝行しようと心に決めたのだった。


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