渇愛の契り~絶対王と囚われの花嫁~
「疲れた顔をしている、無理させたか……」
自分でも自覚があったガイアスは、苦笑いを浮かべる。
カルデアの目の下には薄ら熊があり、元々肌が白いせいもあり、血色が良くないように思えた。
愛した女を抱くというのは、あんなにも余裕がなくなる事なのかと、ガイアス自身驚いた程だ。
それに、ガイアスはもう一つ驚いた事がある。
一度結婚した身でありながら、カルデアは純潔だったのだ。
(このように美しい女を抱かずにいられるなど、ヘルダルフは男ではないな。いや……愛がなかったのか)
カルデアは政治の道具で、それ以上では無かったのだと、ガイアスは不憫に思う。
(でも今は、カルデアと愛を交わした人間が、俺だけで良かったと……心の底からホッとしている)
他の誰かなどと、ガイアスは考えるだけで怒りが沸く。
「俺の王妃は、眠る姿さえ美しい……」
純白のシーツに負けず劣らずの白い雪の肌。
触れれば溶けて崩れてしまいそうな儚さがあり、ガイアスは昨夜、あれだけ触れておきながら、頬に触れようと伸ばした手が震えるのを感じていた。
黄金の川のようにシーツに流れる金の髪も、禁断の林檎のようにふっくらと赤い唇も、全てが愛おしい。
「決して、お前を手放さない」
ガイアスは静かにカルデアの手を取り、指を絡めた。
二人の薬指には、銀の光を纏う指輪が朝日を浴びて、輝いている。
「決して、悲しみの涙を流させない」
ガイアスは、その目元に口付けた。
すると、カルデアの睫毛が震え、目覚めが近い事を知り、心が踊る。
(愛しいカルデア、お前には笑顔で過ごせる日々を、愛されている実感する幸せを与えよう)
それが、この国の王ではなく、ガイアス・ナディアという一人の男としての役目だと、ガイアスは思った。
「目覚めたら、またお前に愛を囁く。だから……覚悟をしておけ、俺のカルデア」
ガイアスは愛しい王妃の目覚めを、冬が終わり、春が来るのを待つ花のように。
温かい眼差しで、王妃の目覚めを待つのだった。