渇愛の契り~絶対王と囚われの花嫁~
「カルデア姉様」
「っ……アイル!」
おずおずと声をかけてきたアイルに、カルデアはハッとしてガイアスから離れると、最愛の弟に向かって駆け寄る。
「やれやれ、俺の王妃はツレないな」
「そんな調子で、場所関係なしに襲っていると、いつかカルデア様に逃げられますよ」
「それは困る、いっそ手錠で俺に繋いでおくか!」
名案だと言わんばかりにガイアスは言う。
そんなガイアスを心底軽蔑するように、シュドは「あなたはこのまま、牢行きですよ」と言い捨てた。
そんな二人の会話さえ聞こえない程、カルデアは弟の姿を見て感極まっている。
「少し痩せたかしら、ご飯はちゃんと食べているの?」
「カルデア姉様、私はなんともありませんから」
アイルは安心させるように優しく微笑む。
カルデアは、そんなアイルの肩や腕をポンポンと確認するように触れて、今にも泣きそうな顔をしていた。
「それよりも、カルデア姉様が無事で本当に良かった。イナダール国に嫁いですぐ、ナディア国に攻め入られ、今度はナディア国の王妃になったと聞いた時には、卒倒しそうでしたよ」
一瞬、アイルの瞳が潤んだように見えた。
それでもアイルは気丈に振る舞い、カルデアの手を優しく取る。
「あの時、この手を話した事を……何度後悔したか」
(アイル……)
あの時とは、この地を発つ時にお別れのつもりで、手を繋いだ時の事だと、カルデアはすぐに思い出した。
「ごめんなさい、心配かけてしまって……」
(きっと、一人で泣いては国王になるという私との約束のために、強く前を向いて頑張っていたのでしょうね)
アイルの姉だからこそ、カルデアにはそれがわかった。
辛い時こそ、笑顔で悲しみを誤魔化そうとする癖は、姉弟そっくりだなと、カルデアは思う。