渇愛の契り~絶対王と囚われの花嫁~



その夜、カルデアは一年ぶりにアルナデール国の自室で眠る事になった。

もちろん、最愛の夫、ガイアスも一緒に。


「ここまで、怒涛の日々だったな」


寝台に座るガイアスは、窓辺から懐かしむように城の庭園を眺めるカルデアに向かって、そう声をかけた。


「えぇ、今ようやく、息をつけたみたい」


カルデアはガイアスを振り返り、小さく笑う。
そして、もう一度外の景色へと視線を向けた。


「もう、この雪を見る事は無いんだと思ってた……」

「カルデア……」

「この地を踏みしめるのは最後だと思って、私はこの城を旅立ったの……」


(この雪の国が……大好きだった。寒さに耐えながら懸命に生きる人も、草花も全てが愛しい)


「なのに、いざ帰ってくると、愛した国には変わりないのに、懐かしいとは思わなかった」


カルデアは純白の世界を見渡しながら、肩からずり落ちていたブランケットを羽織り直す。


「今は灼熱のような日射しのほうが懐かしく思えて、この雪には慣れていたはずなのに、凍えそうな程、寒く感じる」


この地とナディア国との温度差はかなり大きい。
最北端と最南端で、本来ならば交わる事も無かったかもしれない二つの国が交わった。
それを、カルデアは奇跡のように感じていた。


< 191 / 205 >

この作品をシェア

pagetop