渇愛の契り~絶対王と囚われの花嫁~
その夜、カルデアは一年ぶりにアルナデール国の自室で眠る事になった。
もちろん、最愛の夫、ガイアスも一緒に。
「ここまで、怒涛の日々だったな」
寝台に座るガイアスは、窓辺から懐かしむように城の庭園を眺めるカルデアに向かって、そう声をかけた。
「えぇ、今ようやく、息をつけたみたい」
カルデアはガイアスを振り返り、小さく笑う。
そして、もう一度外の景色へと視線を向けた。
「もう、この雪を見る事は無いんだと思ってた……」
「カルデア……」
「この地を踏みしめるのは最後だと思って、私はこの城を旅立ったの……」
(この雪の国が……大好きだった。寒さに耐えながら懸命に生きる人も、草花も全てが愛しい)
「なのに、いざ帰ってくると、愛した国には変わりないのに、懐かしいとは思わなかった」
カルデアは純白の世界を見渡しながら、肩からずり落ちていたブランケットを羽織り直す。
「今は灼熱のような日射しのほうが懐かしく思えて、この雪には慣れていたはずなのに、凍えそうな程、寒く感じる」
この地とナディア国との温度差はかなり大きい。
最北端と最南端で、本来ならば交わる事も無かったかもしれない二つの国が交わった。
それを、カルデアは奇跡のように感じていた。