渇愛の契り~絶対王と囚われの花嫁~
「海なんて、あなたに船に乗せられるまで知らなかったのに、キラキラと乱反射する宝石のような海に囲まれた、あの南国の方が……懐かしく思えるの」
「そうか、お前はナディア国を……帰る場所だと、思ってくれているのだな」
声が思ったより近くに聞こえて、カルデアは振り返ろうとした。
それよりも先に、ガイアスの腕がカルデアを後から抱き締める。
カルデアはその腕に手を添えて、ガイアスと一緒に雪景色を眺めた。
「俺は、雪を見たのが初めてだ」
「そうなの? でも、初めてあった時、私の事を雪のようだって……」
「小さい頃に母上が読んでくれた絵本に、雪が描かれていたから知った」
(母上……前王妃様には、結婚する報告と結婚式でお会いしたわね)
カルデアは前王妃である義母と会った時の事を思い出す。
優しくて朗らかな方だけれど、芯は強く、流石は前王妃と思わせる気品があった。
早くに母を亡くしたカルデアにとっても、本当の娘のように接してくれる義母は母のような存在だった。
(でも、ガイアスが絵本って……今の姿と全然結びつかないわ)
あまりにも似合わなすぎて、カルデアは小さく笑ってしまう。
ガイアスにもそんな頃があったのだと、カルデアは少しだけ、子供の頃のガイアスを見てみたいと思った。
「どんな絵本なの?」
もう少しガイアスの子供の頃の話を聞きたくて、カルデアは尋ねてみる。
ガイアスはカルデアを抱きしめたまま、その肩に顎を乗せると、「確か……」と呟いた。
「絵本で雪の降る塔にお姫様が捕らわれていて……それを助けに行く勇者の話だ」
「どこにでもありそうな物語ね」
「母上のお気に入りの物語らしい」
(義母様はロマンチックな方なのね。それにしても……)
そんな事を思いながら、カルデアには先程から困っている事があった。
「カルデア、聞いているか?」
「え、えぇ……聞いてるわ」
ガイアスが話すたびに吐息が耳にかかり、カルデアの心臓が悲鳴をあげているのだ。
今更気付いた互いの鼓動さえ感じる距離に、カルデアの耳は真っ赤になった。
「どうやら、カルデアは待てないようだな」
「え?」
「来い、俺の王妃」
ガイアスはカルデアの手を引き、優しく寝台に横たえると、当然かのようにその上に跨る。
「あ、の……ガイアス!」
カルデアの心臓は早鐘を打ち、その場から逃げ出したい衝動にかられた。
そんなカルデアを逃がさまいと、ガイアスはいつものようにカルデアの手首を寝台に縫い付ける。