渇愛の契り~絶対王と囚われの花嫁~
「この選択に、悔いはありませんから」
カルデアはジャラジャラと足首の鎖を鳴らして、トールさんの元へと歩いて行くと、小窓から差し出される食事が乗ったトレイを受け取った。
「こんな塔に閉じ込められてるのにか?」
「それが、私に課せられた運命だというのなら、受け容れましょう。それに、不憫なだけではないですよ?」
小窓から、トールの「どういう意味だ?」と言わんばかりの顔を見て、カルデアはクスリと笑う。
「こうして、トールさんにも出会えましたし、お城の使用人の方々は、私に優しくしてくださいました」
そう、この城の人は、基本的に優しい。ただ、冷酷な国王に逆らえないだけで、人を思いやることが出来ることを、カルデアは身をもって知っていた。
「ろくに、雑巾の絞り方も知らなかった私に、丁寧に仕事を教えて下さいましたし、怪我をした時は、兵士の方々が手当してくださいました」
もちろん、夫のヘルダルフには秘密で、だが。
それでも、母国を離れ、慣れない環境に置かれたカルデアにとって、人の優しさは嬉しいモノだった。
「それは、王妃様の人徳だろう。俺たちみたいな下民にも優しい王妃様は、この国では稀に見る人格者だ」
この国は、国王が絶対的な権力を握っている。
ヘルダルフが気まぐれに誰かの死を望めば、議会などといった話し合いの場も設けられず、実行されてしまう。
そんな、恐ろしい規律の元に成り立っている国なのだ。
だからこそ、誰もが逆らわず、従順のフリをする。