渇愛の契り~絶対王と囚われの花嫁~
「はぁ……」
長い睫毛を伏せて、俯いた拍子に噴水へと浸かりそうになった金の長い髪を、カルデアは耳へとかけた。
その時だった、「これは、美しい!」と、どこからか声が聞こえ、カルデアはハッと顔を上げる。
すると、庭園沿いにある廊下の途中で足を止めた男性が、こちらを見つめている事に気づいた。
(あの人は、誰かしら……?)
男性は頭に赤いターバンを巻き、金の装飾が散りばめられた、全体的に黒く、薄い生地の服を纏っている。
カルデアが見つめ返すと、ジャラジャラと装飾の音を立てながら、男性が駆け寄ってきた。
「この城に、このように美しい女神がいたとは!」
「……め、女神などと、恐れ多いです」
興奮した様子の男性に、カルデアは戸惑いながらも答えた。
目の前にやってきて改めて、カルデアは男性を見上げる。
ガイアスと同じ褐色の肌をしており、紫がかった髪が色気を放つ、美しい男性だった。
「なんと!声も鈴の音のように透き通り、美しい。名は何という、申してみろ」
「あ……カ、カルデアと申します」
「俺はアルハジャール国の王、ハルミール・アルハジャールだ。カルデア、早速だがお前を後宮に迎えたい」
「えっ、あ……アルハジャールの……こ、後宮に?」
カルデアは、驚きに言葉をうまく紡げなかった。
アルハジャール国は、この大陸とは別の、砂漠大陸にある国で、石油や絹織物の生産国でもある。
恐らく、この世界に存在するどの国よりも財力のある国だろう。