マリン・ブルー
…渉。戻ってきたよ。
『ワタル』。久しぶりに、本当に久しぶりにその名前を脳内に響かせた。
それはさっきの車掌さんが告げた駅名と何ら変わりなく、僕の身体中に染み渡る。
僕が渉の名前を呼ぶことは、何の不思議もなかった。
この街で過ごした18年間。それはまるで、息をするのと同じくらい当たり前で。
生暖かい夏の空気を肺いっぱいに吸い込む。
むせかえる程の熱気と潮の香りに、少しだけ視界が歪んだ。
駅を踏み出す。
一歩踏み出すごとに、僕はひとつ、記憶の迷路に迷い込む。
今日僕は、この街に戻って来た。
渉と、一緒に。