マリン・ブルー
……………
駅の前の坂を下ると、小さなバス停がある。それは僕がこの街にいた頃と何ら変わりなく、ひっそりと次のバスを待っていた。
色のはげた小さなベンチ。そっと掌で触れると、それは夏の陽射しを浴びて熱を持っていた。僕はそのままそこに腰かける。
『熱くない?』
渉はよく、そう言った。
『ねぇ、こうやってタオル敷くと、少しだけ涼しいよ』
普段全然女の子らしくない渉からは考えられないけど、渉はいつも可愛らしい清潔なタオルを持ち歩いていた。
それを丁寧に畳んで、ベンチに置く。
『変わんねぇだろ』
僕が言うと少しだけ膨れっ面をして、『そんなことないもん』と言う。
渉の膨れたほっぺたも、少し汗ばんだおでこも、ペタッとはりついた横髪も。
目を閉じれば、鮮明に蘇ってきた。
『穣はここが好きなんだね』
瞼の裏の渉が言う。
渉の口から出た『ミノル』という僕の名が、なんだか少し哀しかった。
『わかるなぁ。空気が少し、しょっぱいもんね』