マリン・ブルー
風が香り、渉はすうっと息を吸った。
しゃんと伸ばした背筋が、夏の青に眩しい。

『しょっぱい空気、好き。夏の味がするから』

渉は夏が好きだった。
向日葵、太陽、海、スイカ。
夏は渉の好きなもので満ちていたから。

『ね、穣。このベンチに立つと、向こうの海が見えるよ』

『少しだけね』、渉はそう言って、ベンチに立った。律儀にもきちんと、ローファーを脱いで。

『きぃもちいなぁ』

立ち上がった渉を夏の風が包む。
短いスカートの裾がヒラヒラと揺れた。
長い渉の髪の毛も、同じように潮風が包む。

僕はベンチに座ったまま、眩しさに目を細めた。
渉の横顔が、太陽に反射して霞む。

『なぁ、渉』

そこから見える景色は、今もまだ変わらない?












…あの頃より確実に伸びた背では、ベンチに立たなくても軽々と海が見えた。

青い空に青い海がよく映える。あの頃渉が見ていた景色も、こんな色だったのだろうか。

渉の目に映るこの景色は、こんなにも綺麗なものだったのだろうか。












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