私は対象外のはずですが?~エリート同僚の甘い接近戦~
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月曜日。週明けにしては珍しく、午前の業務を早めに切り上げることが出来た私は、スムーズに社員食堂の席に着けた。

木谷 詩織(きたに しおり)、二十七歳。

加工食品から介護食、外食産業の商品も扱う、大手総合食品商社『ミツソラ食品』関東支社に勤めて五年目の営業事務。

自社ビルの一階から十階までは、IT企業や法律事務所といった様々な業種のオフィスが入り、十一階から最上階の二十二階までを、ミツソラ食品東京支社の営業部、業務部、物流部、経理部、総務課などのあらゆる部署が占めている。

社食は二十一階にあって、眺望もなかなか。運良く、窓際の席を確保出来たことに満足しながら、今日の日替わり定食の白身魚フライを口に運ぼうとしていると。

「ごめん、詩織!」

テーブルを挟んで向かいに座っていた同期入社の泉 真由(いずみ まゆ)が、顔の前で申し訳なさそうに手を合わせた。

「え……?」

箸を持っていた手が止まる。

「タクトの奴、結構……ううん、かなり本気だと思ったから、詩織に紹介したのに……」

タクト、というのは、私がこの前の土曜日に一緒に出掛けて、お別れした年下の男の子のことだ。


先日、会社帰りに真由と歩いてたら、真由の高校の後輩と偶然出会って、それがタクトくんだった。私は初対面だったけど猛烈に彼に気に入られたらしく、「詩織に会わせてくれって、もうしつこくて……」と真由に頼まれて、後日会ったのがきっかけだった。

真由は紹介した手前、私達の仲が進展しているのか気にしていたらしくて、昨日電話をくれた。その時に、タクトくんに言われたことや、もう二度と会うことはないだろうということを真由に伝えた。



「別に真由が謝ることじゃないでしょ。だだ、彼の中の私のイメージと、実物が違ってたってことみたいだから」

「それが腹立つのよっ。理想像だけで恋人が出来るかっつーの。いい歳の男が、夢見る女子みたいなこと言ってんじゃないよっ」

周りに人が居るため、真由の声のトーンはいつもと同じだけど、口調から内心とてもイライラしていることが伝わってくる。私はそれを鎮めるように、あえて淡々と言った。

「だけどさ、私のことをよく知らずに第一印象だけで付き合い始めて、やっぱ違ってたみたいだからごめん、って言われるより、よっぽどタクトくんは誠実だと思うよ」

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